2023年10月27日
9月下旬、当園に気仙沼出身の若手絵本作家、阿部結さんが来園され、絵本の魅力や創作時の想いなどを語っていただきました。
ご縁があって結さんの作品にたくさん触れる機会がありますが、どの作品も登場人物の子ども達が本当に子どもらしい子どもで、個人的に私のお気に入りでもあります。
この講演会では作家さんおすすめの絵本の紹介もして下さり何冊かの読み聞かせもして下さいました。いつも読み手に回ってしまう私達やお母さん達はなかなか絵本を読んでもらう機会がなく、とても新鮮な気持ちで、純粋にお話の世界に浸ることができました。
また、結さんのお話の中で印象に残ったことがありました。
結さんはご自身の幼少期のことを、あまり前面に表立って言いたいことを表現する子ではなかったし、明るい子でもなく、小さい頃はご両親も共働きだったため、お母さんに甘えたいけれどなかなか甘えられなかった…というようなお話をされていました。しかし、そのような小さかった頃のどちらかといえば内にこもった感情が、現在の作品の大きなヒントになったり絵本が世に生み出される原動力になったりしているというお話しに、目からうろこでした。
きっと誰の中にでもある内に秘めていることや内にこもっている負の感情。人の持つ負の感情はネガティブなイメージだったり前向きになるために気持ちを切り替えようとしたり、考え方を改めたりしなくてはいけないものというような感覚があります。明るく元気で前向きな子の方が良いというような印象が、なんとなく…ただなんとなくあるのではと思います。
しかしこれまで私が目にした結さんの作品は、日常のふとしたことがヒントになっていたり幼少期の自分の想いを重ねたり、子どもの目線で『こどもだったらきっとこうだろうな♪』というほっこりしたりワクワクしたりする気持ちや、誰もが持ついたずら心などが見事に表現されています。今回のお話を聞いて、素晴らしい作品の源になっているものの一部には、幼少期の負の感情もあるのだとするならば、負の感情も捨てたものではないな…と思えました。裏を返せば、もしかするとそのような幼少期の負の感情がなかったら、いくつかの作品は生まれていなかったかもしれないとお話を聞いて思いました。
もちろん、成功体験は次への前向きな気持ちにつながりますが、私自身も上手くいかなかったり失敗したり心が満たされないようなマイナスの経験も、自身のタンスの肥やしとなって今の糧になっています。そしてそれらの経験があるから次はこうしてみようと考え、新たな行動へと結びついています。その後に成功体験が訪れた時には、充実感や達成感、喜びが深まっています。だとするならば、マイナスの感情も次のステップに行くためには必要な経験と言えるかもしれません。
負の感情の行方は、更なる負の感情へ向いてしまうことも時にあるかもしれませんが、いつか結さんのようにそれが源となって花開くことがあるのかもしれません。
ー最後にー
阿部結さんの作品の一例をご紹介。
秋の夜長にいかがですか?
園長 伊勢 千春