園長先生のつぶやき

心に思うこと、その時感じたことをそのまま綴る、園長の徒然日記です。

2023年02月07日

劇あそび旬間が終了しました。

しかし、終了した今でも、お面をつけたりクラスでごっこあそびが盛んに行われていたりと、劇あそびの余韻を楽しんでいる子ども達です。担任達の発行する劇あそびだよりをみながら、「こんな結末になったのね」とフッと笑みがこぼれたり「こんな風に話が進んでいたなんて、子どもだったらドキドキするわ~」とハラハラしながら読んだり。かくいう私も、白雪姫ベースのお話であそびが進んでいるクラスに、急遽魔女になって劇ごっこにスパイスを加えに登場しました。声だけの出演で良いと言われていたものの、やはりそこは根っからのめるへん魂が黙っていてくれません(笑)。しっかり黒マントや黒ロングスカート(常備している劇用自前衣装)などで応戦。クラスや学年、クラス担任を超えた関わりとなった劇あそびでした。

劇あそびを通して、活発に発言するようになった子もいれば、アイディアを考え工夫したり家で劇に必要なものを作ってきたりした子もいました。また、そのような目立ったアクションはなくても、ドキドキしたりワクワクしたりお話の世界に『心』は惹かれ、想像の世界に入り込んでいた子だってたくさんいたはずです。この二週間の劇あそびが子ども達の育ちにプラスになっていることを願います。

そして今回、どのクラスにもオオカミが出てきたり泥棒が登場したり、悪さを仕掛けてくる悪者らしき人物が出てきましたが、昔話の世界にもたいていこのような人物が現れます。

例えば『桃太郎』では、鬼が村を荒らし村人たちの大事なものを奪っていき、最後は桃太郎や動物達に懲らしめられたり、『舌切り雀』では雀の舌を切ってしまった意地悪で欲深なおばあさんが最後には大きなつづらを選び、中から蛇だの化け物だのが現れてお仕置きされたり。『こぶとりじいさん』や『かちかちやま』、『さるかにがっせん』でも悪さをしたり欲が深かったりすると最後は決まって悪事が自分へと返ってくるというお話が昔話の中にはたくさんあります。

以前、これらの話の結末が「残酷だ」とか「子どもの教育にはよくない」「最後は許してあげて仲直りとすべきだ」などという話が社会的に持ち上がったことがあり、物語の結末を「許してあげて仲直り」と書き換えられて売り出されている昔話の絵本まで出てきたことに、児童文化に精通していた初代の園長が大変憤慨していたのを今でも覚えています。こういう悪いことをしたらこうなるんだ、自分だけが良ければという考え方をすると最後にはこんな結末になることもあるんだ、そんな戒めを昔話は教えてくれているのです。

残酷だから子どもへ悪影響が及ぶのではないかとか、子どもをあまり怖がらせたくないから最後はしっかり謝ってハッピーエンドの方が居心地がいいとか、そんな思いもよぎるかもしれません。しかし、現実の世界でだって謝ったからすぐに許せる問題ばかりではないことを小さなうちから少しずつ学ぶ必要があると思っています。今回の劇あそびでは大抵、悪さをしたけれど最後には仲直りをしたり怖いと思っていたオオカミが実は友だちがほしかっただけだったり結末は様々でした。それはそれで、もちろんいいのです。子ども達がみんなで作り上げたお話の世界ですから。しかし、昔から語り継がれてきた昔話は、いつの時代も子ども達の心を揺さぶり、生きていく上で必要なことを問いかけているのです。ですから、絵本を手に取り物語に触れた子ども達が絵本の意図を読み取り、道徳を学んでいく場であってほしいと思っていますし、昔話にはそんな力があります。だからこそ、物語の結末がソフトに書き換えられて子ども達に届けられていることに初代園長も憤りを感じていたのでしょう。

 

先週末は節分行事があり、親父の会から6名のお父さま方が鬼役をかって出てくださいました。

鬼を怖がって泣く子や必死に豆を投げて果敢に向かっていく子など様々でした。節分も日本の伝統文化。子ども達にとって『鬼』もひとつの恐怖ポイントかもしれません。実際、節分行事も「子ども達を怖がらせないでほしい」という要望で、かわいい鬼のお面を作っておしまいという園もあるようです。今回の当園の豆まきでは年少組には2匹の鬼が各クラスに登場し、年中年長は6匹の鬼たちが一斉に部屋に入っていくというように、それぞれの学年に合わせ、鬼達もパワー調整はバッチリでした。必要以上に怖がらせることはしませんが、やはり私とすると鬼役がいる節分行事も、やはり経験してほしい行事のひとつです。

そのような意味ではもちつき大会も一緒です。

のどに詰まらせる危険があるから餅つきをなくしているというところもあるようですが、これも日本特有の伝統文化。最初から切り分けられ、パックで売られているのが「餅」と思っていた幼児もたくさんいたようです。もちつき大会では、園庭にかまどを用意し、せいろでもち米をふかし、ふっくらさせてから臼や杵を用いてついて、ようやく餅になるという様子に触れ、みんなが食べているお餅はこんな工程を経てようやく口に入っているのだということも知ってほしいという願いを込めて行っています。そして、それを実際間近で見て、もち米の粒がくっつきあって粘り気を帯び、やがて皆の知っているお餅になるという過程をみることも大事な食文化のひとつだと思っています。食べ物はみな、簡単に食卓に並ぶのではなく、たくさんの人の手が加わり、様々な工程を経て初めて皆の口に入ることもこうして自然に知ってほしいですし、もちつきの「よいしょ~!」という掛け声やあいどりの様子などを見て楽しむこともまた風情があり、経験してほしいことのひとつです。

 

怖いものや、時に昔話のように残酷なものを排除しすぎて、「危ないもの」「刺激が強いもの」とひとくくりにして日本の伝統文化に触れる機会が子ども達の世界から減ってしまうのは残念です。ソフトな環境だけを子ども達に提供することだけがいいとは限らず、時に心にちくっと何かが刺さることもあれば、昔話の結末に、ゾクッとすることだってあるでしょう。こうして物語から学ぶこともあれば日本の伝統文化を通して知ることもたくさんあると思います。

ストレスフリーな居心地の良い環境は誰もがうらやむ望ましい環境です。しかし今置かれている私たちの環境も、子ども達の未来も、きっとそういう環境ばかりではないはず。だとするならば、そんな環境にもある程度順応していく力を小さなうちからつけていく場面が必要です。まだ小さいから…ではなく、それらの心育ては、今この時期からすでに始まっているのです。

 

 

園長    伊勢 千春

 

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