園長先生のつぶやき

心に思うこと、その時感じたことをそのまま綴る、園長の徒然日記です。

2023年01月23日

先週から劇あそびが始まりました。

『劇』ではなく『劇あそび』
あまりなじみのない言葉かもしれません。通常、学校や幼稚園で行う発表会では劇が主流だと思いますが、あえて当園では『劇あそび』を教育活動の一環として取り入れています。

劇はステージで、自分に割り当てられた決められたセリフを言ったり、役に合わせた衣装を着てセリフに合わせた身体表現をしたり出番や立ち位置もきめられているので練習が必要になります。小学校で行っている劇のように、大勢の前で自己を表現することや、責任を持ってそれぞれの役割を果たすという経験もいずれ必要な経験となるでしょう。しかし、この幼児期はもっと別な角度から大事にしたい心の育ちを追求し、あえて劇ではなく、発表形態をとらない『劇あそび』に当園では取り組んでいます。

幼児期の子ども達は、もともと 『ごっこあそび』 が好きで、まねることからあそびが始まります。戦いごっこやヒーローごっこ、お母さんごっこやお店屋さんごっこなど、テレビで見ているヒーローのマネや、スーパー、レストラン、病院など実体験をもとにしたごっこあそびが子ども達のあそびの中には溢れています。最初はその実体験をもとにごっこあそびが始まりますが、しだいにもっとあそびを面白くしようとしたり実体験に近づけようと考えたりするようになります。

そんな気持ちが芽生えてくると、ひらめきで思いつく面白いことを取り入れたり、これは悪者の仕業かも?!と想像を働かせたりするようにもなるので、しだいにごっこあそびから劇ごっこへと変化していくのです。そのうちあそびに必要な小道具を自分で工夫してつくるようになり、どんどん積極的にあそびに向かう前向きな行動に結び付いていきます。そこには『やらされ感』は全くなく、まさに子どもが主体となって自分で思いつくもの、想像するもの、必要とするものなどが取り込まれていきます。ですから、台本もなくセリフもありません。自由な発想で自由な表現でいつのまにか話が展開していくので、子ども達は夢中になってあそべるのです。

劇あそびは、そのような個々の主体性だったり想像力だったり工夫する力だったりとたくさんの育ちにつながります。皆で相談したりアイディアの共有をしたりもするので、人の意見や発想に耳を傾ける機会も増え、協調性にも結び付いていき、あそんでいくうちに様々な総合的な学びができるような流れになると考えています。そして、これまで関わりの少なかった友だちとも接点が生まれたり、部屋だけにとどまらずあらゆる場所が劇ごっこの舞台となるため他クラス他学年の遊びが影響し思わぬ方向へストーリーが展開していくこともあります。

また、普段から童話と童謡にも力を入れているため、たくさんの絵本や紙芝居などお話の世界に触れる機会もあります。本来子ども達は絵本や紙芝居などお話の世界が大好きです。ですから普段親しんでいる絵本やストーリーがモチーフになってクラスのオリジナルストーリーが生まれることも多々あり、劇あそびの幅の広さは無限大です。

私も初代園長富田先生から幼児期の劇あそびの重要性をとことん叩き込まれてきました。知れば知るほど、やればやるほど劇あそびとは奥が深く、幼児期の育ちに大事な要素が多く盛り込まれていることを実感してきました。

発表会のように子ども達がかわいい衣装を身につけ、ステージ上でセリフを言ったり踊ったりする姿はかわいらしいはずで、見る側の大人の満足度も高いのではないかと思います。しかし劇あそびは「人に見せるために練習する」いう概念がないため、ステージ披露ができません。ですからそのような大人の満足度からすれば『劇あそび』という活動は『劇』の発表に勝てないかもしれません。
しかし、活動そのものが誰のために、なんのために、という根本的な部分を見過ごしてしまい、うわべの綺麗な形だけを求めてしまったら、子どもの育ちには何の意味も持たないでしょう。

ひらがなの読み書きができる、ピアノが弾けるようになるというように、明らかに目に見えるものであれば成長を感じることができますが、劇あそびのような活動は子どもにとってどんな成長があるのか、なかなか表に見えてこないものです。しかし、子ども達のあそびの様子を見ていれば一目瞭然で、自分達で考えて、よりお話がより面白くなるようなアイディアを出し合う姿だったり、周りの声に耳を傾け聞き合いながら、想像の世界や創造の世界を楽しんでいる姿だったりがみてとれます。何よりも、「この子ってこんなに発想力が豊かだったんだ」「口数が多くなく控えめな子だと思っていたけれど、こんなに面白いアイディアを持っている子だったんだ」など子どもの新しい一面にも出合えるのが劇あそびです。
劇あそびには間違いや失敗がなく、こんなふうに自分で思いついたことをすぐにあそびに取り入れられる環境だからこそ、子ども達がイキイキのびのびと自己表現ができるのでしょう。そして周りの友だちの発言やアイディアに刺激を受け、たくさんの友だちと関わるからこそ劇あそびは楽しくワクワクするのです。劇あそびにはそんな魅力があり、だから劇あそびにとことんこだわりたいのです。

子ども達にとってはこのように魅力的な活動ですがまとめる担任は必死です(笑)。30人いれば30通りのアイディアや発想、発言が出るといっても過言ではないため、その様々な発想をどう一つのストーリ―の中に取り入れていくか…先も読めず大変です。しかしだからこそ、子どもがまさに主体の保育となるのです。先生が前に出て、子ども達を指示通りに動かすような保育とは真逆の性質を劇あそびは持っているため、先生達も多くの学びができるのです。しかし、身も心もヘトヘトになるのが劇あそび(笑)。私も担任時代はこの活動中は子ども達の想いもよらない発想や想像力に驚きとワクワク感とでといっぱいでしたが、夜の8時を超えると寝てしまうような毎日でした(笑)。ですから、先生達の気持ちが痛いほどよくわかります。今は縁の下でそっと先生達を支えたいと思っています。

 

今の時代、小さな子ども達でさえスマホのゲームや一人でも楽しむことのできる手段が多々ある世の中になりました。だからこそ幼児期の今、幼稚園ではどんなあそびが必要なのか、どんな環境が子ども達にとって必要なのか。このような時代だからこそ、そんな部分にとことんこだわり追求していきたいと思っています。

全ての教育は、子ども達の健やかな成長の願いのもとに。

私たちも、決まっていることをこなすだけの教育ではなく、子ども達自らがより意欲的に、より能動的に成長し心が豊かになるよう願いを込め、「あそび」という名の「学び」を深めていけたら…と思っています。

 

園長    伊勢 千春

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