園長先生のつぶやき

心に思うこと、その時感じたことをそのまま綴る、園長の徒然日記です。

2022年07月11日

毎日暑い日が続いております。熱中症の心配も本格化してきており、さらにここにきてまたコロナの心配が大きく出始め、なかなか落ち着かない状況です。

今の時期しかできないようなプールあそびや水あそび、どろんこあそびやボディペインティング等をとことん経験できる季節到来ですが、全国的にもコロナの患者数が上昇しており、その波は当園にも少なからず影響を及ぼしています。それに伴い行事の中止や延期をせざるを得ない状況ですが、子ども達のあそびや活動への影響は何とか最小限に…との思いで進めております。来週には年長のお泊り保育も控えているため、何とかそこまで持ちこたえてほしいという想いで、先生達も日々消毒にいそしんだり感染防止に努めた環境作りに取り組んだりしながら保育にあたっています。

そんな心配をよそに、子ども達は待ちに待った楽しい夏がやってきた!という感じでしょう。シャワーや水あそびに歓声をあげる子や、シャワー滑り台からのウォータースライダーに大喜びの子。その子ども達の姿をみて笑顔になる先生達。そして先生達も子どもと一緒になってどろんこになりあそんだり全身ずぶぬれになって歓声をあげていたり。

しかし中にはまだまだダイナミックなどろんこ遊びや水あそび、プールが苦手な子もいます。年少さんなら、裸足になって外であそぶ経験だって、これまでなかなかなかったでしょう。そう考えると、すぐにそのような環境に馴染める子もいれば、あそんでいる皆の様子を見ながら少しずつ慣れていくという子もいて当然です。だからこそ、初めての体験になかなか入っていけない子は、無理に引っ張るのではなく、先生達や友だちの楽しそうな様子を見て、まずは興味を持ってもらったり、見ていてなんだか楽しそう♡という感覚を持ってもらったりというところからスタートし、少しずつ輪の中に入っていくことができればという思いでいます。

 

以前、私が年中のクラス担任時代、Mちゃんというなかなか新しい環境に馴染めない女の子がいました。Mちゃんがまだ入園前、あそび体験時に先生達の出し物で『白雪姫』の劇を行いましたが、「Mは幼稚園に入ったら、白雪姫の先生がいい♡毒リンゴの魔女は絶対嫌だ!!」と家で話していたようです。しかし、その時私が迫真の演技で演じたのが『毒リンゴの魔女』でした。やるからには全力で…というのが私のポリシーでしたから、それはそれは全力で意地悪なお妃や毒リンゴの魔女を演じたわけです…。そしてMちゃんは運悪く、私のクラスになってしまったのです。入園したMちゃんはとにかく私を毛嫌いし、私が笑顔でMちゃんに近寄っても、大泣き…(涙)そして「幼稚園に行きたくない!!!」と登園拒否が続いていました。だいたい行き渋りになる原因は「お母さんと離れたくない」というものが多く、担任が嫌で行き渋り…..というのは今まで私も経験がなく、他でもなかなか聞かない理由でした。Mちゃんの「魔女先生は嫌だ!白雪姫の先生がいい!!」という、もはやどうすることもできない理由に、申し訳ない…という想いしかありませんでした。このころの私は、何事にも全力の保育をしていましたが、これを機にその時々の状況でいい塩梅を見つけながら保育していく術を身に付け、ひとつ学びを得た時でもありました。

そんなMちゃんでしたが、どうにか幼稚園へは来ても、初めての体操、初めての裸足、初めてのどろんこなど『はじめて』がつくものが大抵苦手でした。

会話では楽しさをアピールし誘ってはみるものの、かたくなに拒んでいる状況だったので、あまり無理強いはせずに「じゃあMちゃん、先生やお友だちの体操見ててね」と促し、ベランダから皆の体操を見ているということがしばらく続きました。しかしそのうち体操が終わって教室に戻ると、「先生、体操間違っている子がいたよ」とか「こういうふうにジャンプするところをこんなふうにしてる子がいたよ」などと少しずつ『はじめてのこと』にMちゃん自身が近づいているのが分かるようになりました。そして外で体操をしながらふと教室前のベランダに目を向けると、Mちゃんがまねっこしながら楽しそうに体操している姿を見かけるようになり、仲良しの友達ができるとついにはその子と一緒に外でみんなと体操ができるようになりました。

裸足やどろんこも同じように、「先生やお友だちがあそんでいるの見ててね」とMちゃんに声をかけ、私も泥んこを子ども達と楽しみながら、ベランダにいるMちゃんに「Mちゃ~ん♡やっほ~!みてみて~先生もどろんこ怪獣になっちゃったよ~」と笑顔で大きく両手を振ると、あそびに参加していなくても楽しそうな表情で外の様子を見て手を振り返してくれるMちゃんの姿が日に日に多くなっていきました。あの時のMちゃんの表情や姿から、体はみんなと離れたベランダにいたものの、心はもうみんなの輪の中にすっかり入って一緒に遊んでいるという雰囲気でした。そのうち、まずは靴を履いたまま…そしていつの間にか肌着で全身泥んこ姿…というイキイキとした姿に変わっていきました。そしてあんなに嫌がっていた私にも飛びついてきてくれるようになりました(感謝感激!!)。

『最初から皆と同じように』…と願っても、そうはいかないこともあるし、皆のあそびを傍観しているだけに見えても、心は『楽しんでいる』こともあるんだと、この時私自身体得したのでした。輪の中にいるから楽しんでいる、皆と一緒にいないから楽しんでいないと表面だけで判断してはいけないんだと保育の奥深さを知りました。Mちゃんの変化からもわかるように、子ども達の成長や人とのコミュニケーションの深まりは一瞬で生まれるものではなく、ひそやかな小さな積み重ねから生まれるものだと気づいたのもMちゃんのおかげです。

大人がどうにかしようと一生懸命引っ張らなくても、子ども達には自分達で伸びる力があり、友だちや先生の楽しそうな姿をみて輪の中に入っていけるということだって多々あります。だからこそ、子どもを指導しようとか、こうなってもらいたいという気持ちばかりを強く持ちすぎず、純粋に子ども達と共に水の冷たさや気持ちよさを味わったり泥の感触を味わったりすることが大事だと思っています。そうすることによって、水やどろんこ、裸足が苦手な子も自然にあそびの中に吸い込まれていく時がくるのです。

子どもの中に教師も入り込んで一緒に楽しさを共有すると、どんなことに子ども達が喜び、どんなことに子ども達が感動しているのかも、きっとわかるはずです。だからこそ、皆と成長のスピードが多少違っても、あまりあせらず、子どもひとりひとりの育ちに寄り添いながらその時を待つ…ということの大切さを日々実感しています。

 

こうして私も子ども達からたくさんの学びを得て今があります。たくさんの初めてを経験している一学期もあと少しで終了します。このまま皆が元気に夏休みを迎えられますように。

 

 

園長    伊勢 千春

 

 

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