園長先生のつぶやき

心に思うこと、その時感じたことをそのまま綴る、園長の徒然日記です。

2022年06月20日

昨日19日は父の日でした。

幼稚園でも父の日や母の日は家族への感謝の気持ちを込めて各学年それぞれが趣向を凝らしたプレゼント作りの活動を取り入れています。子ども達の作ったプレゼントを見て、ふと思い出したことがありました。

母の日や父の日が近くなると、近隣のスーパーからお父さんお母さんの顔を描いてほしいと依頼を受けていました。そして描いた子ども達の絵をお店にその期間展示するというものでした。依頼を受けた年は協力をさせてもらっていたのですが、数年前、当時年長だったS君のお母さんからこんな話しをされました。

「母の日企画でスーパーにお母さんの顔が展示してあると園から知らせが来たので行ってみたが、うちの子は私の顔ではなく主人の顔を描いていた。私は髪が長いのに、飾られていた絵は髪が短く私の顔ではなかった。我が子になぜ先生の話をきちんと聞いていないのか、なぜ母の日なのにお父さんの顔を描いたのかを問い詰めたものの、泣いて黙って全く返答がなかった。Sの周りに飾られていた子ども達の絵は、お母さんにリボンをつけたり花をちらしたりしているのに、なぜうちの子はこうなのか。その状況を担任もなぜ気づいてくれなかったのか」と憤りと悲しみが入り混じっているような状況でした。私も実際その絵を見ておらず、絵を描いていた時の状況も分からないため、まずは担任に確認をとってみるということで、その場は終わりました。

実はこのS君のママは、普段からお子さんをどんなふうに育てていいかとても悩んでいらした方でした。我が子なのに自分の息子がよくわからないし、どう接することが正しいのかわからないと度々相談を受けていた保護者でもありました。そしてこの件でひどくがっかりされている様子でした。

そこですぐに担任に確認をとると、S君は間違いなくお母さんの顔を描いていたとのこと。担任はS君がお母さんの顔を描いている時の様子をはっきり覚えていました。なぜなら、確かにS君のママは髪が長いけれどS君が絵を描きながら「僕のお母さんはいつも髪の毛を後ろで結んでいるんだー。でね、Sのお母さんはピンクが好きなんだよ。だからピンクの口紅にしてかわいくするんだー。」と言いながら描いていたので、お母さんの顔に間違いないということでした。たまたま展示されていた絵を写真に収めてきてくれていた先生がいたので私も見せてもらうと、S君の絵は大きく紙いっぱいに笑顔のお母さんの顔が描かれていました。そして担任の言うように、にっこり笑った唇はピンクのクレヨンで描かれておりました。一見見ると髪は短くお父さんにも見えなくありませんでしたが、髪を後ろに束ねたところを正面から想像して描いた絵だったからでした。

そっかそっか、短く見える髪はそういうことだったのかと納得がいきました。そして写真で見るに、飾られているS君の周りの子達は女の子の絵が多く、お母さんが色鮮やかなかわいい洋服を着ていたり髪がクルクルと長く、大きなリボンがついていたり。しかし他の男の子たちの描いた絵も見てみると、皆シンプルにお母さんの顔を描いているものがほとんどで、S君の絵が劣っているとは全く思いませんでした。それどころかS君のお母さんの絵は、画用紙いっぱいに大きく、そしてにっこり笑った口元はピンク色で、お母さんへの想いがなんて溢れている絵なのだろうと思ったほどでした。

事実が確認でき、すぐにS君のお母さんへあの絵は間違いなくお母さんの顔であったこと、そしてあの絵を描いている時のS君の様子などもお伝えしました。S君のお母さんも話を聞いて、そうだったのかと涙を流されていました。「なぜお母さんじゃなくてお父さんの顔を描いたのか、なぜ先生の話をちゃんと聞けないのか」と息子の想いを確認せず、決めつけて高圧的な言い方をしてしまったから、きっと子どもも何も言えなくなってしまったのだと思う…と。

きっとこういう親の想いと子の想いのすれ違いは、日常的に起こっているのかもしれません。

しかしこの件も、担任がS君の様子をみていてくれたから、最後にはS君とお母さんの心を救えたのだと思います。そして、幼稚園としてそんな橋渡し役ができたことが本当に良かった…と心から思った出来事でした。

 

子育ては失敗や後悔の連続。

特に子育て中は毎日がとても忙しく、目まぐるしく過ぎていくと思います。どうしても口を開けば小言になってしまうことだってあるでしょう。しかし、私たち大人が口を開く前に一度子どもの心の声を聞くことができたなら、今回のようなことを少しでも減らせるかもしれません。

しかし思うように進まないのが子育てです。

子どもの気持ちはこうだったんだ、こんな想いでいたのかと、のちに初めて気づき、心がギュッと締め付けられることもあるかもしれません。しかしきっと子育てはそういうことを繰り返していきながら親も成長していくのだと思っています。私自身、幼稚園教諭としても親としてもたくさんの失敗と挫折を繰り返してきました。しかしだからこそ今の自分があるのだと思っています。失敗をして次はこうしようと反省したり、挫折をして心が痛むからこそ相手の痛みにも共感して寄り添えるようになったり。こうして人としても少しずつ成長していくのでしょうね。

これからも子ども達の心の声に耳を傾け、丁寧に寄り添っていけば、救われる想いもたくさんあることを心にとめて保育にあたっていきたいと思います。

 

 

さて、昨日突然の雷雨の後の晴れ間に見えた、入道雲の走りのようなモクモクの雲。

梅雨に隠れて、夏はもうそこまで来ていますね。

IMG_3205[1] 園長   伊勢 千春

 

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