園長先生のつぶやき

心に思うこと、その時感じたことをそのまま綴る、園長の徒然日記です。

2022年01月21日

今週から劇あそび旬間に入り、一月いっぱい各クラスで劇あそびを楽しむ期間となっております。

『劇』ではなく『劇あそび』
あまり聞きなじみのない言葉かもしれません。通常、学校や幼稚園で行う発表会では劇が主流だと思いますが、あえて当園では『劇あそび』を教育活動の一環として取り入れています。

劇ではステージで、自分に割り当てられた決められたセリフを言ったり、役に合わせた衣装を着てセリフに合わせた身体表現をしたり出番や立ち位置もきめられているので練習が必要になります。小学校で行っている劇のように、大勢のお客さんの前で自己を表現することや、責任を持ってそれぞれの役割を果たすこと、そして、皆で一つの作品を作り上げるというような経験はいずれ必要な経験になるでしょう。
しかし、この幼児期はもっと大事にしたい経験があると当園では考えているため、あえて『劇』を行わず、発表形態をとらない『劇あそび』に取り組んでいます。

幼児期の子ども達は、もともと 『ごっこあそび』 が好きで、模倣、いわゆる何かのマネからあそびが始まります。例えば男の子だったら戦いごっこやヒーローごっこ、女の子だったらおかあさんごっこやお店屋さんごっこ。いずれにしても、テレビで見ているヒーローのマネや、スーパー、レストラン、病院など実体験をもとにしたごっこあそびが子ども達のあそびの中には溢れています。最初はその実体験をもとにあそびが始まりますが、しだいに自分でもっと面白くしようとしたり実体験に近づけようと考えたりしながら、必要な小道具などを自分で工夫してつくるようにもなり、どんどんあそびの中で自ら積極的にあそびに向かう前向きな行動に結び付いていきます。ひらめきで思いつく面白いことを取り入れようとしたり、想像の中で悪者の仕業かも?!という空想を働かせたりもするので、オリジナルのストーリーが生まれ、しだいにごっこあそびから劇ごっこへと変化していくのです。そこにはやらされ感は全くなく、まさに子ども達が主体となって自分で思いつくもの、想像するもの、必要とするものなどが取り込まれていきます。

ですから、台本はもちろんなくセリフもありません。自由な発想で自由な表現でいつのまにかお話が展開していくので、子ども達は夢中になってあそべるのです。しかも子ども達自らが主体的に中心となって…。
劇あそびは、そのような個々の主体性だったり想像力だったり工夫する力だったりとたくさんの育ちにつながります。皆で相談したりアイディアの共有をしたりもするので、人の意見や発想に耳を傾ける機会も増え、協調性にも結び付いていき、あそんでいくうちに様々な総合的な学びができるような流れになっていると考えています。

もしかすると、親としてはステージで披露する『劇』のように、演技する我が子をみたい気持ちもあるのではないかと思います。特に小さい年齢ではかわいい衣装を身につけ、ステージ上でセリフを言ったり踊ったりする姿はかわいらしいはずで、見る側の大人の満足度も高いと思います。しかし劇あそびは人に見せるための練習というくくりとは全く異なるため、ステージ披露ができません。ですから大人の満足度を考えれば『劇あそび』という活動は劇の発表に勝てないかもしれません。
しかし、『子どもが主役』という教育理念のもと二週間あそびこんでいます。

幼稚園という集団生活や園生活全般において、本来、活動そのものがいったいなんのために、誰のためにという根本的な部分を見過ごしてしまい、うわべだけをみてしまったら、子どもの育ちには何の意味も持たないでしょう。ひらがなの読み書きができる、ピアノが弾けるようになるというように、明らかに目に見えるものであれば成長を感じることができますが、劇あそびのような活動は子どもにとってどんな成長があるのか、なかなか表に見えてこないものです。しかし、子ども達のあそびの様子を見ていれば一目瞭然で、自分達で考えて、よりお話がより面白くなるようなアイディアを出し合う姿だったり、周りの声に耳を傾け聞き合いながら、想像の世界や創造の世界を楽しんでいる姿だったりがみてとれます。何よりも、「この子ってこんなに発想力が豊かだったんだね」とか「普段口数が多くなく控えめな子だと思っていたけれど、こんな面白いアイディアを持っている子だったんだね~」など職員室で話題にあがることも多々あります。
劇あそびには間違いや失敗がなく、こんなふうに自分で思いついたことをすぐにあそびに取り入れられる環境だからこそ、子ども達がイキイキのびのびと自己表現ができるのでしょう。
劇あそびにはそんな魅力があるのです。
だからこそ劇あそびにはとことんこだわりがあるのです。

自己を開放して自由な表現をしながら、たくさんの想像力や創造力が備わったその先には、きっとまた新たなチカラが子ども達には備わっていくだろうと信じて・・・。

園長      伊勢 千春

© めるへんの森幼稚園. All Rights Reserved.