園長先生のつぶやき

心に思うこと、その時感じたことをそのまま綴る、園長の徒然日記です。

2018年05月18日

先日、絵本作家のかこさとしさんが92歳で死去されたというニュースを目にしました。

かこさとしさんといったら、それはそれはたくさんの種類の絵本を出版されており、幅広い年齢層に支持されている作品が多々あります。代表的な作品では 『だるまちゃんとてんぐちゃん』 『からすのパンやさん』 『どろぼうがっこう』 などのおはなしえほん。これらはシリーズでもたくさん作品が出版されており、私も新刊が出ると本屋で手にとり、今度のお話はどんなかな♡とワクワクしていた一人です。おはなしえほんの他にも自然と生活にまつわる本や子どもと年中行事の本、からだの本や科学の本に至るまで、本当に幅広い分野においてたくさんの作品を世に送り出した方でもあります。園の本棚の一部だけでも、かこさとしさんの絵本がこーんなに!

生涯現役、晩年まで創作意欲を燃やしていたかこさとしさんですが、その背景には戦争への反省と平和への願い、将来を担う子ども達への想いがあったそうです。そんな話を受け、もう一度改めて何冊かの絵本を手にとってみました。

たくさんの方が一度は読まれたことがあるだろう 『からすのパンやさん』。

4羽の子ども達の子育てに奮闘しながらパン屋を切り盛りしているお父さんとお母さん。お客さんの「もっと安く」「お店をきれいに」「いろんな種類のパンがあったらいいな」のリクエストに応えながら、いろいろ考え、変わった形の楽しくて美味しいパンを作りお店が大繁盛するというお話。数えてみたら見開き1ページになんと84種類ものパンがありました!テレビパンやかみなりパン、歯ブラシパンにトンカチパンなど、もし本当にこんなお店があったらどれを買おうかワクワクが止まらない!という感覚になり、ひとり、絵本をみながらにやけてしまいました。そんなパン屋にたくさんのからすがパンを買いに行くのですが、そのページもまた面白い。オシャレからすやケガをしているからす、おばあちゃんからすにカメラマンのからす等々。同じからすが一羽もいない。そして絵本のあとがきには【一羽一羽のからすの表情に個々の生きた人物描写の表現を試みた作品。もう一度からすたち一羽一羽の表情を見て笑って下さい。】と書いてありました。見開いた1ページでこんなにも楽しめるなんて…と、この絵本の楽しさを改めて感じました。

また、同じシリーズで 『からすのてんぷらやさん』 では天ぷら屋が火事になり、店主はヤル気を失ってしまうも、近所のレモンさんやなかまのからすが天ぷら屋の再開を手伝い、元気を少しずつ取り戻しながら店を再開させるという内容です。かこさんはこの本を東日本大震災後の2013年に発行しています。あとがきには【戦災や震災の時、レモンさんのような方々に何人も接して、平時では得られぬ貴重な教えをいただいた。そして人間の社会はただ大勢いるのではなく、互いに助け合い補い合って「社会」が成り立つことを知った。】と綴っています。

かこさんは作品をつくるとき、「子どもであっても自分の考えを持ち行動できるよう、お手伝いしていくことが自分の使命と考えている。」と言っております。それはかこさんの絵本 『だるまちゃんとてんぐちゃん』 『からすのやおやさん』 などからも伝わってきます。

一度は読んだことのある絵本でも、こんな切り口からもう一度改めて読み返してみると、全く違う新しい絵本にであったような感覚になりました。かこさんの作品だけではありませんが、このようにまた違った角度から大人も絵本を楽しみ、絵本からのメッセージを受けとる…そんな時間を持つのもたまにはいいですね。私自身、忙しい毎日の中でも少し心が豊かになれた時間でした。

子どもと一緒に楽しむ絵本、大人が考え感じる絵本。人によってそれぞれ楽しみ方や感じ方、受け取り方が違ってもいいし、ストーリーのその後…を想像するのも『1+1=2』のように答えが決まっていないからこそ、個々の自由な思考で想像していい。こんなふうに絵本の楽しみ方はいろいろあっていいのでしょうね。

絵本の世界は本当に奥深い。

 

 

 

園長    伊勢 千春

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