園長室から

アンパンマンや昔話から学ぶ

少し前になりますが、アンパンマンのアンパンチについて子どもにみせていいものかどうかという話題がテレビで取り上げられており、様々な意見が出されていました。私もこのことについて意見が交わされているのをみて、アンパンマンのアンパンチがいいものか悪いものかすら考えたこともなかったので、なるほどいろいろな考え方があるのだなーと改めて思いました。

アンパンチの良し悪しは一度置いておいて。

アンパンマンの原作者やなせたかしさんは、以前アンパンマンを 『世界一弱いヒーロー』 と言っているのを聞いたことがあります。顔が濡れただけで弱ってしまうし新しい顔を自分で作れないからジャムおじさんに助けを求めなければならない。それでも武器は一切持たずに自分の力のみで闘っており、「自分が傷つくことなしに正義を行うことはできない」と話しています。そしてこれはやなせさんが戦争から学んだ持論だとしています。戦場で飢えている子がいたら自分が空腹でも食べ物を分け与えたり、人が溺れていたら泳ぎが得意でなくても勇気を出して何らかの行動を起こしたり。やなせさんの考えるヒーローは強いから闘うのではなく、弱くても闘うのだといいます。皆が思い描く見た目が恰好良いヒーローではないし強い技や武器を持っているわけでもなく、『アンパンチ』 で正義を守っているのがアンパンマンなのだそう。

私の読んだ本には、「アンパンマンとばいきんまんは酵母菌がなければできないパンや無菌状態では生きていけない人間と同じように、闘いながら共生している。」 と書かれていました。しかし菌が増えすぎてしまえば美味しいパンはできないし、人も病気にかかってしまう。だから上手くバランスを保つことが必要になり、そういう意味ではアンパンチが調整剤の役割を担っているのではないかということでした。そして暴力や戦争などの直接的解決手段ではなく、そういう悲劇を生まないためにも人間が本来持っていなければならない『抑制力』や『制御力』を表現しているのかもしれないということでした。

アンパンマンをこんなに深く掘り下げて考えたことはありませんでしたが、こうしてみると奥深いですね。

そして、アンパンチのことをいろいろを考えていたら、ふと 『かちかち山』や『さるかに合戦』 などの昔話のことを思い出しました。

私達が小さい頃読んだことのある昔話は残酷な結末を迎えるものが多々あります。それらの昔話も今ではだいぶ内容が変更されソフトになっているものがたくさんあります。例えば 『桃太郎』 の鬼退治は暴力的だから子ども向けの書籍では鬼退治という言葉を使わずに話し合いで解決したことになっているものもあります。これらは子どもの教育上よろしくないという世間からの声によるもののようです。

しかし、児童文化に精通していた初代園長富田先生は「昔話のソフト化などあってはならず、言語道断!」と怒りをあらわにしていたのを思い出します。昔話に良く出てくる仇討とは、やられたからやり返すことであり、この一部分だけを切り取ってみてしまうと残酷だしやり過ぎではないかと思うこともあるかもしれません。私達も子ども同士のトラブルが起きた時、やられたらやり返せとは言っていませんから。しかし、アンパンマンも昔話もあくまで 『物語の世界』 の話であって現実ではないのです。悪いことをすれば自分だって痛い目に合うこともあるしこんなにひどい結末だって起こり得るかもしれない。そのような戒めを学び、善悪を考える機会としたりどうしてこうなってしまったのかを読み取ったり、想像したり、考えたりするきっかけに絵本や昔話はあるのではないかと思っています。残酷な終わり方や闘いのシーンだけ、その一部分だけを切り取ってみてしまえば教育上よくないとか子どもには見せない方が良いとなってしまうかもしれませんが、違った角度から物事をみると、また受け止め方が変わるかもしれませんね。

アンパンマンについては、いくら困っている人がいるからとはいえ自分の顔を食べさせたり顔がないまま空を飛んだりするなんて残酷だしありえないという声もあがっているようですが、これもまたあくまで物語の世界のことですし、全てを現実のこととして大人目線でのみ捉えたのではもったいない気がしてしまいます。

そして、よく子どもは想像と現実の区別がつきにくい…という声は耳にしますし、私自身も子ども達と接していてそう思うことはたまにあります。ですが、だから子どもから遠ざけるのではなく、そんな時こそ大人の出番で、その物語が訴えていることや伝えたいことは何かを子どもと一緒に考え、時に導きながら探していくことが大事なのではないかと思います。

 

最後に ~ 『アンパンマン大研究(フレーベル館)』 より ~

「アンパンマンはなぜばいきんまんを捕まえないのですか」 との問いに、「アンパンマンとばいきんまんは、光と影、陰と陽、プラスとマイナスのような関係」 とし、 「アンパンマンはなぜすぐにばいきんまんをアンパンチでやっつけないのですか」 との問いには 「アンパンチはやっつけることが目的ではなく、悪事を止めることが目的だから」 としています。そして、アンパンマンとばいきんまんの闘いは誰しもが抱く「良い心」と「悪い心」の象徴であり、常に「悪い心」を自身のアンパンチで制御しながらバランスを保っている人間そのものを表していると綴られています。

世の中は決して綺麗ごとだけでは成り立たないしスムーズなことばかりでもない。アンパンマンや昔話をはじめとする物語から子どもと一緒にそんな背景を読み取り、人の心情なども学んでいけたらいいのではないでしょうか。

 

 

園長    伊勢 千春


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