園長室から

誕生会講話『考える力』より

本日、2~3月生まれの子ども達の今年度最後の誕生会を行ないました。

年6回の誕生会では、お越しいただいた保護者の方にお時間を少し頂き、お話の時間を設けています。

毎年テーマは、私が個人的に今気になっている事や皆さんと一緒に考えてみたいことなどを取り上げており、今年は『自分で考えて行動する力』をテーマとしました。

近年、研修会等に参加すると、大人からの指示待ちの子が増え、大人の指示がないと動けない子が増加傾向にあるというような話をよく耳にします。そうした傾向から自分で考えて行動する力が減っていると言われており、その背景には、大人が言いすぎたり、子ども自身が考える前に大人が正しい方向に向かわせようとし答えを先回りして出してしまったりしていることが関係しているのではないかと言われています。もしかすると、大人が子ども達の考える機会を奪ってしまっている可能性があるかもしれないのです。もちろん正しい答えにたどり着くのは大事ですが、そこに向かうまでに多少時間がかかり遠回りになっても、自分で考えたり見極めたりしながら答えにたどり着くその過程も大事なことだろうと思います。

昨年、ノーベル医学生理学賞を受賞した京都大学の本庶先生が、子ども達へのメッセージで「教科書に書いてあることを信じるな。本当はどうなのかという視点を持ち、自分の目で判断し納得することが大事である。」とおっしゃられておりました。決して教科書なんかいらないということではなく、教科書に書いてあることが全て正解だと思わずに、自分で見分ける目を持つこと、考える力、判断する力を持つことの必要性を伝えているのではないかと思いました。

そして、昨年5月に亡くなられた絵本作家のかこさとしさん。代表作には『だるまちゃんとてんぐちゃん』『からすのパンやさん』などがあり、皆さんも一度は手に取られたことがあるのではないでしょうか。以前一度書き記しましたが、かこさんは作品を創る時「子どもであっても自分の考えを持ち行動できるよう、絵本を通してお手伝いしていくことが自分の使命」とお話されており、その部分を大事にして絵本作りをしているとのことでした。そして子ども達へのメッセージとして「見分ける目を自分で持て。大人の言うことだけを聞いてちゃダメ。」これはかこさんが戦争から学んだことだと言われています。かこさんの絵本にはそんな想いやメッセージが詰まっていたのです。そこで、講話の中でかこさんの絵本の中から2冊ご紹介をさせて頂きました。

一冊目は『だるまちゃんとてんぐちゃん』

だるまちゃんはてんぐちゃんの持っているうちわや帽子、履物をうらやましく思い、家に帰って「てんぐちゃんのようなものが欲しい」とだるまどんに話します。だるまどんもたくさんの種類のカラフルなうちわや帽子などを用意してくれますが、だるまちゃんにはどれもしっくりこず、いろいろ自分で考えているうちにいいことに気がついたり思いついたりしながら、工夫して自分が納得するものを見つけ出すという話です。うちわにはやつでの葉、帽子はお椀、履物はまな板をヒモで足にくくりつけて、てんぐちゃんの下駄に近づけてだるまちゃんは満足します。

二冊目は『からすのやおやさん』

からす達が森にやおやをオープンさせますが、同じ野菜を同じ値段で売っても、小ぶりなものは売れ残ってしまうため、値段を下げて販売すると完売に。そして初めは店の名前や看板もなかったけれど、もっとお客さんが来るように店の名前を考え魅力的な看板も作成。だんだん周知はされていくものの、果物がなかなか売れないため、また知恵を絞り値段を下げずに売れる方法を模索します。そこで考えついたのが、果物にいろいろな顔を描き、楽しい果物にしてみると、それが評判となり大繁盛するというお話です。この絵本のあとがきにかこさんはこう記しています。『野菜や果物を売るとき、周りの状況で数と値段が少しずつ変わります。特にお客さんの望みや要望がなんであるかをいつも考えること、そしてたくさん売るには絶えず工夫することなど、こうしたことは商売や物を売買する仕事の大事な要点で、子どもが大人になって社会に出た時、必ず考えなくてはならない経済の基本に関係してきます。ですからどうぞいろいろ考え、楽しみながら読んでください。』

この二冊の絵本から子ども達へ伝えたいメッセージがたくさん詰まっていることを改めて感じました。そしてこれは大人へのメッセージも含まれているのではないかと勝手な解釈をしていました。それは、ともすればお椀を帽子にしたりまな板を下駄にしたり、果物に顔を描いたりすることは、大人から見れば肯定されないことかもしれません。ですがこの絵本の中ではそれが成り立っています。初めから否定するのではなく、子どもが考え出したその発想や想像力、工夫する力や創造する力をまずは認め、子ども自身の考え出した満足する答えを受け止めるという寛容な心を持つことが大人にも大切…ということを言われている気がしてなりません。大人ももっとユーモアを持った目で子どもに寄り添う姿勢があってもいいのかもしれません。その過程を経て、お椀やまな板に替わるものを子ども自身がさらに工夫したり創作したりしていければよりいい答えに出あえるかもしれませんね。

私が読んでいた教育本に『考える力とは、能力ではなく「習慣」によって身につく。だから考える力を育てるには考える機会をたくさん作りだしていくことに尽きる。』と書いてありました。考える力が習慣によって身につくのだとしたら考える機会をたくさん創りだしていけばいいのです。大人が先回りせずに…。

そして講話の最後に、昨年参加したスウェーデン教育セミナーの話に少し触れました。スウェーデンをはじめとする北欧は世界でもトップレベルの学力を誇っていますので大変興味がありました。その研修では幼稚園から大学までのスウェーデン教育についての話がありました。スウェーデンの幼児期に大切にしている事。それは自然と関わること、森や土と関わることだという話があり、めるへんの教育の中でも引き続き大事にしていこうと再確認しました。その後の懇親会では、この日記念講演をされた東海大学名誉教授の川崎先生とお話する機会があり、その時川崎先生から「伊勢先生は今幸せですか?」と突然聞かれました。普段あまり幸せかどうかなど考えたことがないですが、不幸だとは思っていないし、毎日が充実しているので「はい。幸せです。」と答えました。すると「では、幸せになるには何が必要だと思いますか?」とさらに質問が!すぐに答えられずにいたら川崎先生がひとこと。「人はね、考えることで幸せになれる。考えることをやめたら人は幸せになれないんですよ。」とにっこり笑って立ち去られ、私は目からうろこでした。

ノーベル賞受賞の本庶先生や絵本作家のかこさとしさん、そして川崎先生。それぞれ専門分野は違えど、言っている大事なことはどれも皆共通していると後に気づきました。

子どもも、そして大人も、いくつになっても『考えること』で心豊かな生活を送ることができるのならば…。考える内容は楽しいこともあれば、時に悩んだりすぐに答えが導き出せないものもあるかもしれません。しかし、自分なりに考えて行動し、自分の認める答えにであった時には充実感や満足感、達成感などが得られ、それが自然と幸せに結びついていくのかもしれませんね。

 

 

園長    伊勢 千春


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