2025年05月12日
5月になり、幼稚園の慣らし保育期間も終了。先週から通常保育時間が始まりました。子ども達の行動範囲やあそびの幅も、少しずつ広がってきているようです。
園生活ではのびのびと楽しく生活してほしいですが、そのためには、安全に生活することや危険から身を守ることもとても大事になってきます。そこで、4月中に園庭でのあそび方や遊具の使い方の全体指導をしたり、クラス毎園内探検をしたりしながら、園生活の『ルール』をみんなで確認。そんな中、先週、今年度第一回目の避難訓練も行いました。
非常ベルはどんな時に鳴るのか、火事や地震が起きた時はどんな風に行動すればいいのか、万が一に備えて普段からどのようなことに気を付けていれば良いのか等、これから年6回にわたって子ども達に指導していく予定です。
毎年、非常ベルの音の大きさにビックリしたり、普段優しい先生がいつもとは違う真剣な、そして少々怖い表情になったりするため、いつもの空気とどこかちょっと違うことを察し、避難する時に泣き出す子もいます。以前、「避難訓練を怖がっているので今日は欠席させます。」という連絡が入ったことがあります。子どもにかわいそうな思いをさせたくない、怖がらせたくないという親の想いからだったのだろうと思います。しかし、『子どもを守る』ことが私達大人の責任であり使命であるならば、どのように子どもを守るのか…一歩間違えてしまうと、本当に必要な子どもへの教えの機会を奪ってしまう事になってしまうかもしれません。子ども達にとっても教師にとっても普段の楽しい幼稚園の雰囲気とは違う、ピリッとした空気に包まれる訓練ではありますが、その空気もとても大事な経験。そして、繰り返し訓練したり練習したりしていくことがとても大切であり、それを積み重ねていくことで、ゆくゆくは自分の命は自分で守るという姿につながっていってほしいと願っています。
そんな想いを持って教育に当たっておりますが、今年3月に卒園した現在一年生の子ども達から幼稚園を巣立つ時、メッセージカードをたくさんもらいました。楽しかったことや嬉しかったこと、面白かったことやありがとうの気持ちなど、ひとりひとりの想いの詰まったメッセージカードでした。そのメッセージカードを読んで、驚いたことがありました。
それは、メッセージの中に
「えんちょうせんせい、いつもみんなのことをみまもってくれてありがとう」
「いつもめるへんをまもってくれてありがとう」
「いつもだいじなことをおしえてくれてありがとう」
「ひなんくんれんでまもってくれてありがとう」
これらのメッセージがたくさん寄せられていたことでした。一人や二人ではなく数多くの子ども達からこのようなメッセージをもらい、正直とても驚きました。
大事なことはちゃんと伝わっていたんだ、子どもたちひとりひとりの小さな胸にちゃんと届いていたんだ…そう思ったら、胸がいっぱいになりました。
こんなに小さな子ども達にも、私たちの心からの想いは伝わるのですね。そして、どんなことが大事なことなのかもしっかり伝わるものなのですね。だから私たち大人が、本気で子ども達に向き合えば、楽しいことも、大事なことも、一緒に共有できるということに改めて気づかされました。こんなふうにしっかり向き合える子ども達の心を、また今年も一年かけて大事に育てていけたらと思っています。
園長 伊勢 千春
2025年05月07日
ーご褒美はー
降園後、おうちの方のお迎えを待つ時間。
お迎えを待つ子どもがあと残すところ3人となったところで、年長のHちゃんが「園長先生、みんなでじゃんけんしない?」と提案してきました。そこで、お迎えを待っていたHちゃんを含む3人の子ども達と私との4人でじゃんけん遊びをすることに。
するとHちゃんが、「じゃあさ、一番じゃんけんに勝った王様は園長先生からムギューっのプレゼントをしてもらえるっていうのはどう?」と他の二人に聞くと、「いいねー♪」と大盛り上がり。「もし、園長先生が勝ったらみんなからギューをしてもらえるっていうことね♪」ということで、皆でじゃんけん対決が始まりました。何度もやっているうちに、じゃんけん勝者の王様には、私からのご褒美のムギューではなく、勝者を真ん中に、みんなからのムギューのご褒美になり、押し合いへし合いでまるでおしくらまんじゅうのよう。それが皆楽しかったらしく、何度も何度もじゃんけん対決が繰り返されたのでした。
じゃんけんに勝ったご褒美が、周りからのムギューっと抱きしめられるプレゼントだなんて、なんてかわいらしい発想なんでしょう。そしてそれにノリノリになり、何度も何度も繰り返し遊ぶ子ども達。私がじゃんけん勝者になった時には、3人の子ども達が私を取り囲んで、ギューっとしてくれました♡
これだから幼稚園の先生はやめられないのです。
ー名探偵の探し物ー
ある日の朝。「園長先生、虫メガネ貸してください。」と年長のK君が私のところにやってきました。
私「K君、虫探しするの?」と聞くと
K君「違うよ。僕はね、名探偵なんだ。ちょっとなくしちゃったものがあるからそれを探しに行くんだ。」
私「失くしちゃったもの?じゃあ、虫メガネで見つかるといいね」
K君「うん。じゃあ探しに行ってくる!」 と飛び出していきました。
その後、私も外に出て登園してくる子ども達のお出迎えをしながら、園庭にふと目をやると、K君がまさにアニメにでも出てくるかのような探偵ぶり。虫メガネを片手に園庭やタイヤ階段の草むら、砂場や砂場のシャベル入れなど、くまなく入念に探している姿がありました。
あんなにあちこち探していて、まだ探しものが見つからないんだな~…と思っていると、少ししてから「園長先生!虫メガネ貸してくれてありがとうございました。」と、K君がやってきました。
私「あ、K君。どういたしまして。ところで、K君。あちこち一生懸命虫メガネで探していたみたいだけど、探し物は見つかったの?」
K君「うん。もう見つかったよ。」
私「そっかーよかったよかった。ところで探し物って何だったの?」
K君「こころ(心)だよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?!・・・・・・・・・・・・・心?!?!
私「K…K君。それはめちゃくちゃ大事なものだもんね。見つかって本当によかった、よかった!」
と心の底から思い、声をかけたのでした(笑)。いつどこでどうして失くしたのか。名探偵になり
失くした心を虫メガネで見つけ出したK君。本当に良かったです(笑)。
時として、子どもは大人の想像をはるかに超えてくるような、豊かな想像力や発想、表現力を発揮します。一見見れば、虫探しかキラキラ光る小石のダイヤモンド探し、はたまた虫メガネでいろいろなものを見ながら探偵ごっこ…のように見えますが、実は本当に探していたものとは…。
こどもひとりひとりが何を考えどんなことを思い、毎日を過ごしているのか。表面からは計り知れないことがまだまだたくさんあるものだなーと思わされたひとときでした。
それにしてもK君、なんて発想力が豊かなんでしょう。まさか探し物が物でなかったとは!
園長 伊勢 千春
2025年04月24日
新年度が始まりました。
園に隣接する風の子公園の見事な満開の桜も葉桜になり、少々はかなげではありますが、ちらちらと園庭に舞い落ちる桜の花びらを集めて喜んでいる子や「お母さんにお土産にする♡」と言ってウキウキした様子の子も見受けられます。今度は新緑が美しい季節になり、これもまたこれからの季節ならではの楽しみ方や感じ方ができると思うと、子ども達を連れていって自然の移り変わりやその季節に味わうことができる環境にふれさせたいなーと思う毎日です。
幼稚園はと言えば、はじめましての子ども達も進級した在園児も、皆クラスや先生など新しい環境に順応中です。ちょっぴり不安げな表情の子や泣いている子もまだ見受けられますが、少しずつ慣れてきているのが表情や行動を見ているとわかります。時々泣いている子も見かけますが、これも新年度のお決まりの風景。そんな涙の子をちょっぴり先輩めるへんっ子たちが声をかけてくれたり自分のティッシュを差し出してくれたりしており、そんな微笑ましい風景が広がっています。
春は出会いと別れの時期ということもあり、新しいめるへんっこたちとはこれから一緒に過ごしていきながら成長を見ていけるのが楽しみです。また、3月に卒園した子ども達も、学校に少しずつ馴染めているか、友だちはできはじめたかなど、いろいろと気になるところがありますが、卒園しためるへんっ子たちの力を信じて、心からのエールを送るしかないなという想いでいます。
そんな中、毎年春は懐かしい顔ぶれにも出会える季節です。小学校や中学校卒業等の節目として顔を見せてくれる卒園生もたくさんいます。
その昔、お父さんのお仕事の都合で他県に転園したY君。現在は実家が神奈川県にあるとのことでしたが、山形大学に進学し、この春卒業を迎えたとの事。そして卒業式があるため、Y君のお母さんTさんと弟さんも山形に足を運んだそう。そしてその帰り道に三人でめるへんに立ち寄ってくれました。Tさんご一家は現在、仙台には親戚も何のゆかりもなく、あるとすればめるへんだけ。それにもかかわらず、わざわざ仙台に立ち寄り、めるへんに足を運んでくださったそう(涙)。大学卒業を機に小さかった頃過ごした仙台、そしてめるへんに立ち寄ってくれたことが本当に嬉しかったです。
Y君は幼稚園時代、とても虫に興味がある子で、当時教務主任だった私は、なかなか保育室に入らないY君にお付き合いして、一緒に虫捕りをしたり、当時かわいがって飼育していたカナヘビ談義をY君としたりしてY君のペースに合わせながら、私も一緒に楽しませてもらっていました。Y君もカナヘビのエサとなるクモ捕りや生まれたカナヘビの卵に夢中だったことを今でも覚えていたようでした。そして、タイヤ階段の草むらでよく虫探しをしていたことも覚えていた様子。そのタイヤ階段や園舎を見て、大変懐かしそうでした。私たちが懐かしい話に盛り上がっているところにS先生もやってきて、「Y君と言えば、いつも職員室の窓辺のところから、「千春先生ー早く虫捕りしようよー!」と顔を出して、千春先生がいつも「ちょっと待ってて―!!」と給食を流し込むように食べて「ちょっと行ってくるわ!」と外に出て行くのが日課でしたよね~」と言っていました。そうそうそんなこともあった!とS先生の話を聞いて当時を思い出しました。Tさんも私が担任だったと勘違いしていたほど(笑)。
そしてそのY君。この春大学を卒業後は大学院に進むとの事。どんな分野の勉強をしたくて大学院に進むのかを聞いてみると、生物学の勉強をもっとしたいということでした。やっぱり!!生物学!「そっかそっか、だって小さい頃から生き物や自然にとっても興味があったもんねー」と、それが今でも活きているのだなと思うと、あの頃給食を丸飲みし(笑)、早食いしてY君に付き合った意味があったということだなーと嬉しくなりました。今、勉強が楽しいと言っていたY君。好きな分野の勉強はとても楽しいものだと話していました。
新年度が始まった今、子ども達がどんなことに興味を持ち、どんな好きなことが見つけられるか。皆と同じことができることももちろん大事なことだけど、個々の興味や関心がどこに向かうのか、そしてそれらに私たち教師もどう向き合っていくのか。未来の子ども達の行く末は、幼児教育の土台も大きく影響していることを私達も心にとめながら、ひとりひとりに向き合っていきたい…そう改めて感じた新年度の始まりでした。
園長 伊勢 千春
2025年03月12日
3月13日、明日は年長さんの卒園式です。
ここ数日、年長さんから話しかけられるたびに「この子とこうして顔を見合わせながら会話するのもあと少しか~」と思うと何だか寂しくなったり、一生懸命卒園式の練習に励んでいる姿を見ては、いとおしさが込み上げてきたり。年長担任はもちろんのこと、きっとどの先生達もそんな想いで子ども達に温かなまなざしを送っていることと思います。
私がこの立場になってから、毎年先生達と年2回、夏と冬に個別面談を行っています。その時に皆の学期の反省や今後の課題、また、今悩んでいることや困っていることなど、率直な意見を聞かせてもらっています。保育の深い話をすることもあれば先生達の私生活のお悩みを聞くこともあり、何でも自由に話してもらっていい時間としています。
その中で、今年初めて年長児を受け持ったS先生から1学期の終わりに悩んでいることがあると聞かされました。S先生は就職してから年少組を2回受け持ち、今年度初の年長担任でした。
何に悩んでいるのか聞いてみると、子ども達の「心育て」が難しくて分からないということでした。心育てってなんだろう、心ってどうやって育つんだろう、心が育っていると感じるのはどんな時だろう…と考えれば考えるほど難しすぎて、どうすればよいのか分からなくなってくるとのことでした。
二年間受け持った年少さんは子ども達の育ちがとても良く見えたそう。
「泣かないで登園できるようになった」「おむつがはずれた」「着替えや食事、自分のことが自分でできるようになってきた」「「かして」「いいよ」がちゃんと言えるようになった」など、明らかに目で見える成長をいくつも感じることができ、保護者とも嬉しさの共有ができていた、そんな二年間だったよう。ところが、年長になると、そういう目に見える成長は大体できているわけで、目にはなかなか見えにくい「心の育ち」の面を育てていく比重が大きくなっていくのです。その部分はどうやったら育つのだろうか、どういう時にそれが育っていると言えるのかどうか、そして担任としてそこを育てていけているのだろうか…と悩んでいた、とのことでした。
私はS先生の抱えている悩みを聞いて、正直すごく嬉しかったのを覚えています。S先生がそんなことを思って保育していたんだ、そんな深いところをしっかり見てしっかり悩んでいたんだと思ったら、とても大切な部分に気づき、悩んでいることが素晴らしいなと思ったのです。
年少さんでは個々の「できた」が大きいですが、年長ともなると「一人のできた」から今度は「みんなで」とか「友達と協力する」「最後まであきらめずに頑張る」「自信が持てないことにも挑戦してみる」などみんなと一緒に達成感や喜びを味わうという気持ちが芽生えてくるのです。そして、少しずつメンタル面での強さだったり自分中心だったものから相手もいることや仲間がいることを知っていったりする中で、心も少しずつ育っていくのです。そして個々の育ちだったものが一つの「クラス」という塊になって「みんなで育っていく」という感覚になっていくのが年長です。私もその感覚は年長担任時代に存分に味わいました。それは年少とも年中とも違う特別な感覚でした。その悩みを打ち明けてきたのはまだ一学期でしたから、S先生には今はまだ「心が育つ」ってどういうことかピンとこないかもしれないけれど、一年かけてきっと「心が育つとはどんなことか」の意味がきっと分かるはずだから、焦らないで子ども達に向き合っていこうという話をしました。心とはそんな簡単に育つものではないし、日々の様々な経験の小さな小さな積み重ねが大事なのです。そして日々の生活の積み重ねの先には、運動会や合唱会、そして最後の集大成の卒園式などがあり、それらを通して教え子たちの心が育っていると、きっと感じることができると思ったからです。
S先生だけでなく、一人一人の先生達がこうして日々様々なことを考え、悩みながら子ども達に向き合っているのだと思います。年二回の個別面談以外でも、「少しいいですか」と毎日先生達が子ども達のことで相談に来てくれていますから。そう考えていたら、そんな悩みや想いを持っている先生達のことをとても誇らしく思いました。毎日の忙しさに追われ、ただ日々を流していくのではなく、子ども達のために悩み考え、ただひたむきに子ども達に向き合えることは先生冥利に尽きますし、そこを突破出来た時に見える一筋の光は誰が照らすものでもなく、紛れもなく子ども達の姿から感じ取ることができるものだと思っています。
私達はそうやって子ども達から成長させてもらえているのだと思います。
子ども達と同じように、時に悩み考え、時に落ち込み、時に喜び、時に感動したのは先生達も一緒です。
「S先生、もうすぐ卒園式だね。子ども達の心が育つってどんな感覚か、今ならもう分かったかな」と数日前に聞いてみると、「はい!すごくよくわかりました!」と満面の笑みで力強い返事が返ってきました。
幼稚園生活はこれからの子ども達の長い人生の中でたった一握りの時間です。
しかしこの幼稚園時代は人として成長していく根っこの部分で、紛れもなく土台となる大事な時間です。そんな時期にかわいいめるへんっ子達に出会えたこと、そして子ども達の成長を保護者の皆様と見守っていけたこの時間は、私達のかけがえのない宝物です。
明日巣立っていく78名の年長さんをしっかり見送り、元気に小学校へ通えるようエールを送りたいと思います。
園長 伊勢 千春
2025年03月04日
子ども達と関わっていると、どうしても自分の我を通そうとしたりなかなか切り替えられなかったりする場面に出くわすことってありませんか?幼児ならあるあるの姿ですよね。幼稚園でももちろんそんなことは日常茶飯事です。
少し前にもこんなことがありました。
満三歳児のRくん。
虫メガネを職員室に借りに来て、虫探しをしたかったよう。ところがその後すぐにクラス活動が始まるとのことで集まりの時間になってしまいました。集まりの時間になったら使っていたおもちゃは皆で片付けるため、もちろん職員室から借りていた虫メガネも返さなければならないのです。ところがR君、「まだ使いたい」「虫メガネを返したくない」とのことで、クラスのR先生と共に私のところにやってきました。「園長先生、R君が虫メガネをどうしても返したくないって言っています。もうお集りの時間になっているのだけれど…」と。空気を察し私もR君に「R君、さっき貸してあげた虫メガネでもっとあそびたかったんだね。でももうお集りの時間になっちゃったのかー。それじゃあ虫メガネは園長先生が預かっておくからまたあとで借りにおいで」とお話ししました。ところがR君は虫メガネを離したくない様子で手でぎゅっと握りしめていました。何度か話しをしましたが、頑なに虫メガネを離そうとしません。しまいには、虫メガネを取られまいと、着ていたジャンバーのポケットにそーっと入れようとする姿も(笑)。
今回をOKにしてしまうと、次もまた…となるかもしれませんし、他の子達だってそうしたくなるはずです。そこでR先生に「R先生、もうお集まりが始まっているかもしれないから、先生はお部屋に戻っていいですよー。R君はきっと虫メガネを返せるはずだから、虫メガネを返せたらR君もお部屋に帰りますね」と話しました。R先生も「はい、わかりました。じゃあR君、先生は先にお部屋に行くけど返せたらお部屋に来てね。待ってるね」と言って職員室を出ました。
残されたR君。少しするとウワ~ンと泣きだしました。「そうだよね、まだ使いたかったし先生も行ってしまって悲しいね。虫メガネさんのおうち(虫メガネを収納しているケース)に返せたらR君もお部屋に行こうね」とだけ声をかけ、私も仕事を始めました。少しするとR君の涙が止まり、ジャンパーのポケットから虫メガネをそーーーっと少し出したり引っ込めたり(笑)。何度もそれを繰り返していました。(本人なりに頑張って自分の心と格闘しているのね…頑張れR君…)と想う気持ちでR君のその姿を横目で見ながら見て見ぬふりをしていました。すると少ししてからケースの中に虫メガネを手放すR君の姿が!「R君! 今、虫メガネさんお家に返せた?」と聞くと「うん」と小さくうなずきました。「R君!すごいよ!偉い偉い!!先生に言われなくても自分でちゃんと返せたね!」と言いながらムギュ~っと抱きしめ、たくさんほめちぎりました。するとR君の顔から満面の笑みがこぼれ「Rね、園長先生にぎゅーってされちゃうと何だか笑っちゃうんだ~」と、さっきまであんなに大きな声で泣いていたとは思えないくらいの満面の笑みでした。
R先生にあとから聞いた話では、部屋にニコニコ笑顔で戻ったR君からは虫メガネを返せたことよりも「園長先生にムギュ~ってされて、Rなんだか笑っちゃったんだ~」という一言だけだったとか。
子ども達との向き合い方は本当に根気と時間が必要です。よく、何か問題が起こったり悲しいことが起こったりすると、時間が解決してくれる…という言葉を耳にします。いくら大人が一生懸命正論を子どもに伝えたところで、実際に自分の心に折り合いをつけるのは子ども本人です。こちら側では早く解決したいし子どもには正しいことを伝えたいと思って諭しても、大人が思うようにすんなりいくわけがないのです。
今回の件がいい例のように、R君には自分で虫メガネを手放す時間が必要だったわけです。そして自分で心に決着をつけ、ちゃんと借りたものを返すことができたその行為をたくさんほめたことで、きっとR君自身の心もすっかり晴れたのでしょう。
借りたものを返す、使ったものは片づける…当たり前のことでもちゃんと自分でやれたのならそれは大いに褒めてあげていい部分だと私は思っています。
忙しい毎日の中で、家庭ではなかなかこのように時間をとっていくことが難しいかもしれません。家庭では難しいことも、幼稚園でこうしてご家庭のサポートが少しでもできたならいいなと願いながら日々子ども達に向き合っています。こうした小さな小さな積み重ねがいつか子ども達の心の根っこになると信じて。
~おまけ~
今朝のめるへんの空と元気にあそびまわる子ども達
園長 伊勢 千春