2025年03月04日
子ども達と関わっていると、どうしても自分の我を通そうとしたりなかなか切り替えられなかったりする場面に出くわすことってありませんか?幼児ならあるあるの姿ですよね。幼稚園でももちろんそんなことは日常茶飯事です。
少し前にもこんなことがありました。
満三歳児のRくん。
虫メガネを職員室に借りに来て、虫探しをしたかったよう。ところがその後すぐにクラス活動が始まるとのことで集まりの時間になってしまいました。集まりの時間になったら使っていたおもちゃは皆で片付けるため、もちろん職員室から借りていた虫メガネも返さなければならないのです。ところがR君、「まだ使いたい」「虫メガネを返したくない」とのことで、クラスのR先生と共に私のところにやってきました。「園長先生、R君が虫メガネをどうしても返したくないって言っています。もうお集りの時間になっているのだけれど…」と。空気を察し私もR君に「R君、さっき貸してあげた虫メガネでもっとあそびたかったんだね。でももうお集りの時間になっちゃったのかー。それじゃあ虫メガネは園長先生が預かっておくからまたあとで借りにおいで」とお話ししました。ところがR君は虫メガネを離したくない様子で手でぎゅっと握りしめていました。何度か話しをしましたが、頑なに虫メガネを離そうとしません。しまいには、虫メガネを取られまいと、着ていたジャンバーのポケットにそーっと入れようとする姿も(笑)。
今回をOKにしてしまうと、次もまた…となるかもしれませんし、他の子達だってそうしたくなるはずです。そこでR先生に「R先生、もうお集まりが始まっているかもしれないから、先生はお部屋に戻っていいですよー。R君はきっと虫メガネを返せるはずだから、虫メガネを返せたらR君もお部屋に帰りますね」と話しました。R先生も「はい、わかりました。じゃあR君、先生は先にお部屋に行くけど返せたらお部屋に来てね。待ってるね」と言って職員室を出ました。
残されたR君。少しするとウワ~ンと泣きだしました。「そうだよね、まだ使いたかったし先生も行ってしまって悲しいね。虫メガネさんのおうち(虫メガネを収納しているケース)に返せたらR君もお部屋に行こうね」とだけ声をかけ、私も仕事を始めました。少しするとR君の涙が止まり、ジャンパーのポケットから虫メガネをそーーーっと少し出したり引っ込めたり(笑)。何度もそれを繰り返していました。(本人なりに頑張って自分の心と格闘しているのね…頑張れR君…)と想う気持ちでR君のその姿を横目で見ながら見て見ぬふりをしていました。すると少ししてからケースの中に虫メガネを手放すR君の姿が!「R君! 今、虫メガネさんお家に返せた?」と聞くと「うん」と小さくうなずきました。「R君!すごいよ!偉い偉い!!先生に言われなくても自分でちゃんと返せたね!」と言いながらムギュ~っと抱きしめ、たくさんほめちぎりました。するとR君の顔から満面の笑みがこぼれ「Rね、園長先生にぎゅーってされちゃうと何だか笑っちゃうんだ~」と、さっきまであんなに大きな声で泣いていたとは思えないくらいの満面の笑みでした。
R先生にあとから聞いた話では、部屋にニコニコ笑顔で戻ったR君からは虫メガネを返せたことよりも「園長先生にムギュ~ってされて、Rなんだか笑っちゃったんだ~」という一言だけだったとか。
子ども達との向き合い方は本当に根気と時間が必要です。よく、何か問題が起こったり悲しいことが起こったりすると、時間が解決してくれる…という言葉を耳にします。いくら大人が一生懸命正論を子どもに伝えたところで、実際に自分の心に折り合いをつけるのは子ども本人です。こちら側では早く解決したいし子どもには正しいことを伝えたいと思って諭しても、大人が思うようにすんなりいくわけがないのです。
今回の件がいい例のように、R君には自分で虫メガネを手放す時間が必要だったわけです。そして自分で心に決着をつけ、ちゃんと借りたものを返すことができたその行為をたくさんほめたことで、きっとR君自身の心もすっかり晴れたのでしょう。
借りたものを返す、使ったものは片づける…当たり前のことでもちゃんと自分でやれたのならそれは大いに褒めてあげていい部分だと私は思っています。
忙しい毎日の中で、家庭ではなかなかこのように時間をとっていくことが難しいかもしれません。家庭では難しいことも、幼稚園でこうしてご家庭のサポートが少しでもできたならいいなと願いながら日々子ども達に向き合っています。こうした小さな小さな積み重ねがいつか子ども達の心の根っこになると信じて。
~おまけ~
今朝のめるへんの空と元気にあそびまわる子ども達
園長 伊勢 千春