園長先生のつぶやき

心に思うこと、その時感じたことをそのまま綴る、園長の徒然日記です。

2025年03月12日

3月13日、明日は年長さんの卒園式です。

ここ数日、年長さんから話しかけられるたびに「この子とこうして顔を見合わせながら会話するのもあと少しか~」と思うと何だか寂しくなったり、一生懸命卒園式の練習に励んでいる姿を見ては、いとおしさが込み上げてきたり。年長担任はもちろんのこと、きっとどの先生達もそんな想いで子ども達に温かなまなざしを送っていることと思います。

 

私がこの立場になってから、毎年先生達と年2回、夏と冬に個別面談を行っています。その時に皆の学期の反省や今後の課題、また、今悩んでいることや困っていることなど、率直な意見を聞かせてもらっています。保育の深い話をすることもあれば先生達の私生活のお悩みを聞くこともあり、何でも自由に話してもらっていい時間としています。

その中で、今年初めて年長児を受け持ったS先生から1学期の終わりに悩んでいることがあると聞かされました。S先生は就職してから年少組を2回受け持ち、今年度初の年長担任でした。

何に悩んでいるのか聞いてみると、子ども達の「心育て」が難しくて分からないということでした。心育てってなんだろう、心ってどうやって育つんだろう、心が育っていると感じるのはどんな時だろう…と考えれば考えるほど難しすぎて、どうすればよいのか分からなくなってくるとのことでした。

二年間受け持った年少さんは子ども達の育ちがとても良く見えたそう。

「泣かないで登園できるようになった」「おむつがはずれた」「着替えや食事、自分のことが自分でできるようになってきた」「「かして」「いいよ」がちゃんと言えるようになった」など、明らかに目で見える成長をいくつも感じることができ、保護者とも嬉しさの共有ができていた、そんな二年間だったよう。ところが、年長になると、そういう目に見える成長は大体できているわけで、目にはなかなか見えにくい「心の育ち」の面を育てていく比重が大きくなっていくのです。その部分はどうやったら育つのだろうか、どういう時にそれが育っていると言えるのかどうか、そして担任としてそこを育てていけているのだろうか…と悩んでいた、とのことでした。

私はS先生の抱えている悩みを聞いて、正直すごく嬉しかったのを覚えています。S先生がそんなことを思って保育していたんだ、そんな深いところをしっかり見てしっかり悩んでいたんだと思ったら、とても大切な部分に気づき、悩んでいることが素晴らしいなと思ったのです。

年少さんでは個々の「できた」が大きいですが、年長ともなると「一人のできた」から今度は「みんなで」とか「友達と協力する」「最後まであきらめずに頑張る」「自信が持てないことにも挑戦してみる」などみんなと一緒に達成感や喜びを味わうという気持ちが芽生えてくるのです。そして、少しずつメンタル面での強さだったり自分中心だったものから相手もいることや仲間がいることを知っていったりする中で、心も少しずつ育っていくのです。そして個々の育ちだったものが一つの「クラス」という塊になって「みんなで育っていく」という感覚になっていくのが年長です。私もその感覚は年長担任時代に存分に味わいました。それは年少とも年中とも違う特別な感覚でした。その悩みを打ち明けてきたのはまだ一学期でしたから、S先生には今はまだ「心が育つ」ってどういうことかピンとこないかもしれないけれど、一年かけてきっと「心が育つとはどんなことか」の意味がきっと分かるはずだから、焦らないで子ども達に向き合っていこうという話をしました。心とはそんな簡単に育つものではないし、日々の様々な経験の小さな小さな積み重ねが大事なのです。そして日々の生活の積み重ねの先には、運動会や合唱会、そして最後の集大成の卒園式などがあり、それらを通して教え子たちの心が育っていると、きっと感じることができると思ったからです。

S先生だけでなく、一人一人の先生達がこうして日々様々なことを考え、悩みながら子ども達に向き合っているのだと思います。年二回の個別面談以外でも、「少しいいですか」と毎日先生達が子ども達のことで相談に来てくれていますから。そう考えていたら、そんな悩みや想いを持っている先生達のことをとても誇らしく思いました。毎日の忙しさに追われ、ただ日々を流していくのではなく、子ども達のために悩み考え、ただひたむきに子ども達に向き合えることは先生冥利に尽きますし、そこを突破出来た時に見える一筋の光は誰が照らすものでもなく、紛れもなく子ども達の姿から感じ取ることができるものだと思っています。

私達はそうやって子ども達から成長させてもらえているのだと思います。

子ども達と同じように、時に悩み考え、時に落ち込み、時に喜び、時に感動したのは先生達も一緒です。

「S先生、もうすぐ卒園式だね。子ども達の心が育つってどんな感覚か、今ならもう分かったかな」と数日前に聞いてみると、「はい!すごくよくわかりました!」と満面の笑みで力強い返事が返ってきました。

 

幼稚園生活はこれからの子ども達の長い人生の中でたった一握りの時間です。

しかしこの幼稚園時代は人として成長していく根っこの部分で、紛れもなく土台となる大事な時間です。そんな時期にかわいいめるへんっ子達に出会えたこと、そして子ども達の成長を保護者の皆様と見守っていけたこの時間は、私達のかけがえのない宝物です。

明日巣立っていく78名の年長さんをしっかり見送り、元気に小学校へ通えるようエールを送りたいと思います。

 

 

園長    伊勢 千春

 

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