園長先生のつぶやき

心に思うこと、その時感じたことをそのまま綴る、園長の徒然日記です。

2025年10月09日

昨日、運動会を終えました。

しかし子ども達は今日も朝登園してくると、裸足で職員室の窓に顔を出し、元気いっぱい「バトン貸してください!」と駆け寄ってきました。運動会の翌日の異年齢交流「めるへんたいむ」でも、バルーンや玉入れ、リレーや組体操のコーナーを先生達が取り入れおり、他学年の子ども達も経験できるようなコーナー設定をしてくれました。そこに群がる他学年の子ども達。こうして興味の目が広がっていったり新たな運動遊びを楽しんだりしていけるのですね。そしてバルーンや組体操のコーナーには、コツを教えてくれようと集まる年長さんもいました。こんなふうにあそびは上の子から下の子へ伝承されていくのです。

運動会のための「練習」だけではなく、運動会が終わった今でもこうして先生や子ども達みんなが運動会ごっこを楽しみ、身体を動かすことを楽しむ姿が本当の意味での教育だと思っています。

きっと体を動かすことが好きな子もいればそれほどでもない子もいるし、絵を描くことが好きな子もいればそうでもない子もいはずです。個々の個性によって好きなこと得意なことが様々だろうと思います。その子自身が何が好きで何が苦手かを知ることは親としても私たち教師としても必要なことだろうと思います。しかし、子どもたちの年齢がまだ低いので、得意不得意だけの問題ではなく、ただ『経験不足』ということも十分考えられます。年長さんだってまだこの世に誕生してから5、6年しかたっていないわけで、たったこの間に得意不得意を決めてしまうのはもったいない事なのだろうと思います。年齢的にはまだチャレンジしていないことや経験していないことの方がはるかに多いわけですから。

ちょうど今、ノーベル賞の話題が新聞やニュースなどで賑わっています。

今回ノーベル化学賞を受賞した北川進さんは子ども達に「いろんな経験をするのを大切に」とメッセージを伝えています。育っていく過程でいろんな経験をするのを大切にしたら、将来花開く可能性があると語っておられました。

だから、運動は苦手…とか絵を描くことは嫌い…などと思わずに、様々な経験をしてほしいなと思っています。そして子どもを取り巻く私達大人がまだ可能性をたくさん秘めている子ども達のことを「うちの子はこうだから」とか「○○ちゃんは○○が苦手だから」と決めつけてしまわずに、様々な経験の場を設けていったり、「これはちょっとやりたくないかも」「自分は苦手かも」と思う後ろ向きな気持ちを前向きに変えていったりできる存在でいられたらと思っています。

以前、高校の数学の先生をしていた保護者に「私は数学はずっと好きになれなかった。数学の面白さが分からなかった。」と話したら、「いい先生に巡り合えなかったのですね」と言われました。私は単純に「自分は数学が苦手」としか思っていなかったので、驚きました。もし私がそんな先生に巡り合っていたら理数系女子になっていた?!と考えるとちょっと信じられない気持ちです(笑)。今思えば、自分は数学は苦手だという先入観もあってか数学の勉強をしようとすると、入り口から身構えたりおっくうに感じたりしており、自分と数学との距離をあけていたように思います。きっと自分自身でより苦手意識を作り上げてしまっていたのかもしれません。大人になるにつれそのような苦手意識は自分自身に確立されていくのでしょうが、今この幼児期にそれを決めてしまうのはまだまだ早すぎると思います。だからこそ、『幼児期の子ども達には様々な経験を』と心から願います。その中で、将来子ども達ひとりひとりがどんな花が開くのかを見極めていけたらいいですね。そのためのお手伝いができるのが幼児期の教育に携わっている幼稚園の役目だと思います。身体をたくさん動かし、歌を歌い、絵本をたくさん読んだり虫や草花の自然に触れたり、絵を描いたり言葉を伝えあったりしながら自己表現したり。時に家庭では味わえないような体験ができるのも幼稚園の醍醐味だと思っています。そしてその数学の先生が言っておられたように、その楽しさを感じさせてあげられるのは、私達先生の役割だと思っています。

可能性を秘めた子ども達だからこそ、その機会や経験の場をたくさん作り、「やってみたら案外楽しかった」とか「今まで好きじゃなかったけどまた挑戦してみたい」「これってすごく面白い!」など、もっとやってみたいとかもっと知りたいという、ちょっとした心の変化が将来の「可能性」を見つけることにつながるかもしれません。そう考えると私達の担っている役割はとても重要だなとあらためて感じています。

ただ日々を流す教育の現場ではなく、そんな意識を持ってひとりひとりが子どもに向き合える現場でありたいなと思っています。どんな形で可能性が開花するかは親であっても誰にもわからないこと。その土台作りに携わる者の一人として、意識と情熱と想いを持った仕事をしていきたいと思っています。

 

 

園長   伊勢 千春

 

© めるへんの森幼稚園. All Rights Reserved.